クレジットカードのオーソリゼーションのお話。

この記事を見かけたので。

naoki440.info

 

TL;DR

・オーソリゼーション(仮売上処理、「オーソリ」)の有効期限は最大60日間と定められている為、60日を超過するとオーソリゼーションが無効になり、売上が非成立となる。

・予約商品では60日以内に再度オーソリを行うことで、実質的に決済の有効期限を延長している。

Lenovoが一回目のオーソリ返金完了前に再度オーソリを行ったのは正常な挙動。

・クレジットカードの場合、オーソリではなく売上確定処理後に請求を行う為、この問題は発生しない。

・Kyash側で2重に引き落としされた&チャージ元クレジットカードへ返金ができないのは正常な挙動。

・クレジットカードのシステムにプリペイドを突っ込むとこの挙動になってしまう。つまり仕様と言える(各種プリカ発行会社もユーザーに告知している)。

 

一般的なカード決済の流れについて

 オーソリゼーション(仮売上処理)とは加盟店(今回のケースではLenovo)がカードの発行会社(イシュア、今回のケースではKyash)へカードが利用可能か問い合わせる処理です。具体的には「利用金額がクレジットカードの利用枠*1以内か(枠の確保)」「既知の不正利用のパターンに決済が類似していないか」「本人の利用か」などの確認を行っています。

デビットカードプリペイドカードの場合、「与信枠」(金融的な「信用」)が存在しない為、オーソリゼーションに成功した時点で残高から即座に利用金額が減算されます。(Kyashの場合、このオーソリゼーションの時点でプッシュ通知が行われるのが特徴です*2

オーソリゼーションは数時間から数日間保留され*3、加盟店がアクワイアラ(加盟店管理会社)に売上データを送信し、アクワイアラがイシュアにデータを送信することで売上確定処理(クリアリング)が行われます。*4(返金の場合も同様の流れで返金確定処理が行われます。)

(注:上記図中の流れは簡略化されており、実際の流れとは異なります。)

 

予約商品の場合のカード取引の流れ

予約商品の場合も通常通りオーソリゼーションを行います。が、オーソリゼーションにも有効期限があり(最大60日間)、有効期限以内にクリアリングを行わないと取引が破棄されます。

よって決済から到着まで60日を超える可能性のある予約商品の場合、

1. 購入時オーソリゼーション(オーソリA)

2. (オーソリAから最大60日以内に)再オーソリゼーション(オーソリB)&オーソリAをキャンセル

3. 商品到着、オーソリBのクリアリング

という流れになるため、オーソリAのキャンセル電文がイシュアに到着し、処理される前にオーソリBが実行されてしまうケースがあります。

 

クレジットカードの場合、先述の通りクリアリングが行われるまで請求が行われない為何も問題は発生しないのですが、デビットカードプリペイドカードの場合はオーソリゼーション金額が即座に口座・残高より減算される為、今回のケースのように2重に引き落としが行われてしまうことがあります。

 

なぜKyash残高への返金なのか

Kyashは2020年9月1日時点で「前払式決済手段」を提供しており、あくまでもチャージしたバリュー(Kyash残高)は「決済手段」ですので、法令に基づき返金が禁止されています。

また、オートチャージ(「カードをリンク」機能)はあくまでも「前払式決済手段の残高が不足した際、カードから不足額をKyash残高へ自動的にチャージする事で前払式決済手段での支払いを完了させる」(不足額分の前払式決済手段を即時発行する)機能ですので、「予約商品に限って紐付けたカードへのオーソリを実行し、後からオーソリをキャンセルする事で残高へのチャージを防ぐ」、も法律上不可能だと思われます。

 

Kyashが気軽に送金できたのは前払式決済手段だった為であり、2020年9月7日のアップデート以降、クレジットカードでチャージしたバリューの送金が不可能になるのはKyash社が「資金移動業者」として送金サービスを提供することを決定した為です。*5(「資金移動業者」の現金バリューは出金が可能です。また、クレジットカードのショッピング枠の現金化はカード会社によって明確に禁止されています。)

 

(※2020年9月7日以降の取引で、クレジットカード以外の手段で入金した残高を用いた決済で返金を行った場合、返金された残高の出金は可能です。)

 

所感など

・予約商品はできるだけクレジットカードを使おう(特に発送まで時間のかかる物)。

・元記事のブコメで「最初に1円引き落として、発送時に購入金額を請求すれば?」という意見を結構見かけたのですが、購入金額を後から請求する形式にすると利用金額が回収できないリスクが発生する(残高不足の可能性がある)ので難しいと思われます。

Lenovoプリペイドカード利用不可の通知を行いつつ、Kyashを上手く弾けていなかったのも原因の1つ*6かな、と個人的には思っています。

・カード決済の複雑な仕組みをユーザーが気にせず利用できる様になると良いな...

・とりあえずKyashはいいぞ。

See also

予約商品購入時について – Kyash HELP

https://support.kyash.co/hc/ja/articles/360000619867

 

二重に決済(減算)されています – Kyash HELP

https://support.kyash.co/hc/ja/articles/360001714828

 

Kyash Visaカードはなぜガソリンスタンドやホテルで使えないのか - Kyash Blog

blog.kyash.co

 

 

*1:デビットカードプリペイドカードでは口座残高やチャージ残高などに当たります

*2:余談ですが、ライブチケットの当選発表前にオーソリが行われた場合も通知が行われるので、公式の当選発表前に当落を知ることができる場合があります

*3:この期間に不正利用が発覚した場合、売上確定は行われず取引はキャンセルされます

*4:Kyashを利用している方はピンと来たかも知れませんが、明細がローマ字表記から漢字表記(もしくは半角カタカナ表記)になるタイミングの事です

*5:前払式決済手段という縛りを逆手に取ったユニークなサービスだったのに、クレジットカードから送金できなくなるのは個人的に残念ですが...

*6:とはいえBIN(カード番号上6桁、イシュアやカードの種類を特定する為に利用する)の公式DBが存在しなかったり、新規のBINや他社から転用されたBIN(Kyashの新カードのBINは元々カタールデビットカードのモノ)等があり、コロコロ変わるのですべてのプリカのBINをDB化するの極めて困難に思えます。