ホッテントリを眺めていたら、このエントリを見つけたので。
元記事のブコメを見ていると、結構意見が割れていて興味深かったです。
TL;DR
- 一定金額内であれば仮売上(オーソリ)を超える金額で請求しても良い、というルールを多くの国際ブランドでは条件付きで導入しています。
- 一部の国際ブランドや、日本国内のアクワイアラ、決済代行業者は許可していない場合があります。
- 上記以外にも増分オーソリや再オーソリと呼ばれる形で、差分を請求したり再度取引をやり直す事で実質的に請求金額をあとから増加させることが可能です。
- サイクルあさひの決済代行業者(GMOPG)は恐らく後者の仕組みで変更OKなタイプです。
- 決済代行業者によっては、そもそも金額変更がNGなところもあります。
おさらい
クレジットカードには「オーソリ(仮売上)」と「クリアリング(確定売上)」があり、「オーソリ」で利用可能額を押さえた後、「クリアリング」で売り上げを確定し、請求を実施します。
なお、クリアリングが実施されるまで、加盟店(クレカが使える店、今回はサイクルあさひ)への支払いや、顧客への請求は実施されません。
※例外として、デビットカード・プリペイドカードはオーソリ段階で引き落としが発生します。
そもそもオーソリ金額より大きい金額を請求することって可能なの?
オーソリ(仮売上)は利用可能枠の仮押さえが目的であるため、オーソリ金額に対して実際の利用額が少ない場合にクリアリング(確定売上)金額を減らすことは可能です。
ホテルのデポジットや海外ECの関税など、サービス利用後でないと請求金額が明らかでない&料金未回収リスクがあるサービスでは、想定より多めの金額でオーソリし、実際の利用額でクリアリングする、といった手法がよく利用されます。
一方、今回のケースではオーソリ金額<請求金額となっており、実はほとんどの国際ブランドが業種などの条件付きで、このような取引を許可しています。
例えばVisaの場合、以下のようなルールがあります。*1
| 加盟店の種類 | 許容される請求金額 | 想定シーン(一例) |
| タクシーおよびリムジン | オーソリ金額+20% | 支払い後の追加移動 |
| レンタカー、宿泊施設 | オーソリ金額+15% | 修繕費・ミニバー料金 |
| 非対面(EC)かつ顧客起点の取引 | オーソリ金額+15% | 顧客希望で商品を追加注文する場合 |
| 米国以外の飲食店 | オーソリ金額+20% | チップ代 |
| 米国の飲食店 | オーソリ金額+30% | チップ代(とてもたかい) |
チップ代の場合、ウエイターにカードを渡した後、ウエイターが決済処理を実施し、カードと一緒に渡された伝票にチップ金額を記入するケースなどがあり、その商習慣に合わせた形です。
このような取引を「オーバーキャプチャー」と呼びます。*2
加えて、国際ブランドがVisaであれば「非対面かつ顧客起点の取引」に該当し、オーソリ金額+15%の請求が許容されるため、決済代行業者が許容していれば今回のケースは仕組み上オーバーキャプチャーが可能と言えます。
もちろん例外もあるし、ほかのやり方もある
「ほとんどの国際ブランド」と書きましたが、実はJCBなど一部の国際ブランドはオーソリ金額<請求金額となるような取引を原則許可していません。*3
例えばデビットカードやプリペイドカードは、オーソリ金額が残高から引き落とされる(=加盟店への支払い財源を確保する)のですが、ユーザーの残高が不足した状態でオーバーキャプチャーな取引をしてしまうと、料金が回収できないリスクがあります。*4
なお、国際ブランドで許可されている場合でも、加盟店の契約するアクワイアラや決済代行業者によって、同様のリスクを回避する目的でオーバーキャプチャーな取引を許可していないケースもあります。(システム的な都合やトラブル防止のため、そもそも金額変更を許可していない場合もあります。)
そのような場合、差額のみを再度オーソリする増分オーソリを実行したり、初回の取引をキャンセルして、正しい金額で再オーソリすることで、オーソリ金額>=請求金額が成立するようにします。*5
なお、オーバーキャプチャーに当たるのか、増分オーソリ/再オーソリに当たるのかの判断は、後者の場合だと2回以上利用通知が来るので判断できる場合があります。
今回の場合、サイクルあさひの決済代行業者はGMOペイメントゲートウェイ*6であり、GMOPGでは「180日以内であれば操作可能」としていることから、オーソリの有効期限(最大30日*7)を上回っており、おそらく増分オーソリや再オーソリが実行されたのではないかと予想しています。
なお、オーソリ時とクリアリング時の為替レートの変動でオーソリ金額<請求金額となることは、加盟店の業種や国際ブランド問わず許容されています。
禁断の扉、ガソリンスタンド
ブコメにもありましたが、ガソリンスタンドでは給油前にカードを挿入後、満タン給油の場合は給油が完了するまで請求金額が分からない事から、一部の加盟店はカードの有効性確認としてその場で1円などの少額オーソリを実施し、金額確定後に別トランザクションでいきなりクリアリングを実施しています。*8
結論から言うと、このガソリンスタンドにおける少額オーソリは日本特有の商習慣であり、現在の国際ブランドのルールに違反しています。
国内のガソリンスタンドは、国際ブランドのネットワークを経由した取引ではなく、ほぼすべての取引がカード会社のネットワーク内で完結する取引(On-Us取引)が行われているため、ブランド側が取り締まることが困難といった事情があります。*9
以下の事件について、当時は15,000円以内の給油用途に限り、少額確認が許容されていました。*10
が、当該事件では物品販売にも少額オーソリを適用しているため、加盟店が保護を受けられませんでした。
現在、国際ブランドは、ホテルのデポジットと同様、想定される利用金額より多いオーソリ(例:Visaのルールでは15,000円)を実行しておき、後日、実際の金額でクリアリングする、といった流れを正規ルールとしています。
現在は上記の事件に加え、ブランドルールの厳格化(少額オーソリの禁止)やコード決済の追加なとによるシステム改修などにより、国際ブランドルールに準拠した方式が主流になっていますが、依然として少額オーソリの加盟店は存在する状態です。
カード情報を不正利用されないの?
前提として、今日の国内の加盟店でカード決済した場合、加盟店側はカード情報を保持しておらず、決済代行業者などがカード番号を保持しています。また、加盟店はログ可能な経路にカード情報を通すことも禁止されています。*11 *12
加えてオーソリには有効期限があり、「決済後、忘れた頃に勝手にオーバーキャプチャーされていた」というケースはほぼ存在しないと思われます。また、再オーソリ/増分オーソリの場合は3Dセキュア対象の取引でない為、加盟店保護は有効にならず、補償時にはユーザーが有利になります。
不正利用された場合、カード会社によって補償を受けることは可能ですが、「遡って60日以内の取引」など条件があるので、カードの明細は必ず確認するようにしましょう。
所感など
- 色々な商習慣を知れるのでクレカのシステムは面白い。
- JCBで決済後にチップ金額書くタイプの加盟店ってどうやって払うんでしょうね?(海外用ルールがあるのか、JCBに限り再オーソリかけているのかな?)
- 当初、サイクルあさひでオーバーキャプチャーしたと思っていたのですが、操作期限的に多分再オーソリだろうなと判断しなおしました。ブコメは戒めとしてそのままですが...
- AIの使い過ぎで文章力の低下を如実に感じた。定期的にアウトプットをせねば(「後で読む」とだいたい同じ意味)
変更履歴
2026/05/29 一部内容を加筆・修正しました
*1:https://www.visa.co.jp/content/dam/VCOM/download/about-visa/visa-rules-public.pdf 「7.5.6 Clearing and Reversal Processing」を参照。NotebookLM推奨。
*2:Stripe用語。Stripeではクリアリングのことを「キャプチャー」と呼びます。正式名称は多分ない気がする
*3:JCB加盟店規約第16条より「加盟店は(略)JCBの事前承認を取得した後に信用販売の金額の訂正が必要になった場合には、前項に基づき信用販売を取消しのうえ、再度(略)手続きを行うものとします。」 とあることから、後述する再オーソリが原則で、ホテルのデポジットなどは別途個別契約が存在すると思われます。
*4:この場合、オーバーキャプチャーな取引を許可したイシュア(カード発行会社)に原因があるとされ、イシュアがユーザーに代わって建て替えることになります。デビット黎明期はめちゃくちゃ踏み倒すユーザーが多かったとか。
*5:なお、請求系はオンライン、返金系はバッチで処理する事が多いので、再オーソリの場合だと一時的に二重請求されることがあります。
*6:決済ページに埋め込まれたスクリプトのドメイン(mul-pay.jp)で判別しました
*7:業種、ブランドによります。ECだと10日程度の場合がほとんどです。
*8:この仕様上、ほとんどのデビットカード・プリペイドカードは料金回収の観点からガソリンスタンドで利用することができません。なお、オーソリせずにクリアリングした場合、原則として加盟店が不利益を被ることになります。
*9:ハウスカード・給油カードを各カード会社が提供しているため、加盟店が各社と契約する必要があるという事情や、カード会社は国際ブランドのネットワーク使用料を回避できるのでデメリットがないといった事情もあります。ユーザー側も、売り上げ通知が国際ブランド経由の取引より早いといったメリットがあります。即時通知に「Visa/Mastercard加盟店」と表示される場合と加盟店名がいきなり漢字で表示される場合がないですか?
*10:給油時のみ1円オーソリ=15,000円のオーソリと例外的に見なす規定。15,000円を超過するとトラブル時に加盟店が不利益を被る事になります。
*11:インプリンタ加盟店など一部除く。ほぼ絶滅寸前ですが...
*12:カード情報が加盟店から流出した、というニュースがちょくちょくありますが、「加盟店のWebサイトが改竄されて入力情報が漏洩した」ケースがほとんどです。
